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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)8415号 判決 1992年8月27日

主文

一  甲事件被告らは連帯して甲乙事件原告らに対し、各金一二二〇万九九五五円及び各内金一一一〇万九九五五円につき平成元年一二月一一日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲乙事件原告らの甲事件被告らに対するその余の請求、乙事件被告に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、甲事件についてはこれを二〇分し、その一九を甲事件被告らの負担とし、その余を甲乙事件原告らの負担とし、乙事件については甲乙事件原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告らは連帯して甲乙事件原告ら(以下、単に「原告ら」という。)に対し、各金一二八〇万七二四円及び各内金一一六万七二四円につき平成元年一二月一一日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告(以下「被告安田火災」という。)は原告らに対し、各金一二八〇万七二四円及び各内金一一六五万七二四円につき右同日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、林昭宏(以下「亡昭宏」という。)が、甲事件被告尾田浩之(以下、単に「被告浩之」という。)が保有し、甲事件被告尾田仁志(以下、単に「被告仁志」という。)が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)に同乗中、被告車がガードレールに衝突して亡昭宏が死亡した事故について

1  亡昭宏の父母である原告らは、被告仁志に対して民法七〇九条に基づき、被告浩之に対して自賠法三条に基づきそれぞれ損害賠償を請求した(甲事件)。

2  原告らは、被告浩之が被告安田火災との間で締結していた自動車保険契約に基づき、被告安田火災に対して、右保険金の支払を請求した(乙事件)。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成元年一二月一一日午前一時ころ

(二) 場所 兵庫県西宮市六湛寺町九番二六号先(国道二号線)

(三) 態様 中央分離帯が設けられている片側二車線の道路を被告仁志が被告車の助手席に亡昭宏を、後部座席に外三名を同乗させて東進中、被告車の助手席部分を左側のガードレールに衝突させ、亡昭宏を死亡させた。

2  身分関係

亡昭宏は、原告らの長男である。

3  損害の填補

原告らは、自賠責保険から二五〇〇万円の支払を受けた(以上につき、甲乙事件当事者間に争いがない。但し、右1(三)については甲事件当事者間にのみ争いがない。)。

4  被告浩之は、被告車の所有者である(甲事件当事者間に争いがない。)。

5  被告浩之は、平成元年八月一四日、被告安田火災との間で、対人賠償について無制限に損害を填補する旨の自動車保険契約を締結し、本件事故は、その保険期間中に発生した(乙事件当事者間に争いがない。)。

三  争点

1  本件事故による損害額(逸失利益、死亡慰謝料、葬儀費用、弁護士費用)

2  原告らの被告安田火災に対する保険金請求権の存否(被告安田火災は、本件自動車保険が運転者家族限定特約付であり、被告仁志が被告浩之の同居の親族ではないから、右特約条項二条、三条により、被告安田火災に保険金支払義務はないと主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一、四の1ないし3、被告仁志本人)によれば、以下の事実が認められる。

本件事故状況

本件事故現場は、東西に伸びる中央分離帯のある両側五車線(右折専用の一車線を含む)の道路(以下「東西道路」という。)と南北に伸びる両側五車線の道路が交差した交差点からすぐ東側で東西道路の東行き車線上である。東西道路の制限速度は、時速五〇キロメートルであるが、本件事故当時、被告仁志は、兄の被告浩之から借り受けた被告車を運転し、東西道路を右制限速度を大幅に越える速度で東進し、本件交差点に差しかかつた。その際、被告仁志は、被告車の進路前方約四九メートルの本件交差点中央付近に、対向右折しようとしている自動車を発見したが、同車が停止するものと考え、そのまま約二二・六メートル東進したところ、同車が被告車の進路前方に対向右折してきた。このため、被告仁志は、ハンドルを右に切り、対向右折車との衝突を避けたものの、被告車の右後部が本件交差点のすぐ東にある東西道路の中央分離帯と接触した後、そのまま進路左前方に旋回しながら滑走し、被告車の助手席ドア付近が、道路左側のガードレールに激突して、被告車が大破した。このため、被告車の助手席に同乗していた亡昭宏が死亡した。

二  甲事件について

1  責任

前記一で認定したところによれば、本件死亡事故は、被告仁志が制限速度を大幅に越える高速で被告車を運転し、対向右折車を避けようとして運転操作を誤り、被告車を進路左前方に滑走させて道路左側のガードレールに衝突させたことによつて発生したものであるから、被告仁志に民法七〇九条の損害賠償責任があることは明らかである。さらに、被告浩之は、自己所有の被告車を弟である被告仁志に貸与していたのであるから、被告浩之には、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

2  損害

(一) 逸失利益 三〇一九万九九一〇円(請求三一三〇万一四四九円)

亡昭宏は、昭和四二年一月五日生まれ(本件事故当時二二歳)の独身であり、本件事故当時、大和冷機工業株式会社に勤務し、昭和六三年分の給与及び賞与として二五三万五四〇七円、平成元年分として二三八万九四七七円の収入を得ていた(甲五、六)。右平成元年分の収入が昭和六三年分の収入より低額であるのは、平成元年の途中で亡昭宏が死亡したためであると解され、これに、平成元年中における亡昭宏の死亡時までの右支給実績を考慮すると、亡昭宏は、本件事故当時、少なくとも年間二六〇万円の収入を得る高度の蓋然性があつたというべきである(なお、原告らは、亡昭宏の収入は、昭和六三年賃金センサス新高卒男子二〇歳から二四歳の年収額二六九万四八〇〇円によるべきである旨主張するが、右主張は採用できない。)。また、亡昭宏は、六七歳までの四五年間(新ホフマン係数二三・二三〇七)にわたつて就労することができたというべきであり、これに、亡昭宏の身上関係を考慮すると、生活費として五〇パーセントを控除すべきである。そうすると、亡昭宏の逸失利益としては、三〇一九万九九一〇円となる。

(二) 死亡慰謝料 一六〇〇万円(請求同額)

前記一で認定した本件事故態様、前記二2(一)で認定した亡昭宏の身上関係、その他一切の事情を考慮すれば、亡昭宏の死亡慰謝料としては、一六〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費用 一〇〇万円(請求同額)

前記二2(一)で認定した亡昭宏の社会的地位、身上関係、その他一切の事情を考慮すれば、葬儀費用としては、一〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 二二二万円(二三〇万円)

原告らの請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、二二二万円が相当である。

3  以上によれば、原告らの甲事件請求は、被告仁志、同浩之に対し連帯して各一二二〇万九九五五円(前記2(一)ないし(四)の合計額四九四一万九九一〇円から前記争いのない損害の填補額二五〇〇万円を控除した残額二四四一万九九一〇円について、これを二分の一ずつにした金額)と内一一一〇万九九五五円(弁護士費用二二〇万円の二分の一の金額を控除したもの)につき本件交通事故発生の日である平成元年一二月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

三  乙事件について

1  証拠(甲一一ないし一五、丙一ないし五、証人尾田淳司、被告仁志本人)によれば、以下の事実が認められ、右証人の証言、被告仁志本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分はいずれも信用できない。

被告仁志は、高校卒業後間もなく、大阪市淀川区にある外車の輸入販売、修理を業とする株式会社八光カーラウンジ(以下「八光」という。)に就職し、当初は、奈良県宇陀郡曽爾村の父親宅から電車で通勤していた。しかし、通勤に長時間を要することなどから、昭和六一年六月ころ、大阪市東成区中道にある親類宅に下宿して通勤するようになり、これに伴つて、同年六月一三日に住民票の住所を右親類宅に移転した。さらに、被告仁志は、勤務先の残業が続いて右親類に迷惑をかけることがあつたため、昭和六二年三月ころ、右親類宅の近くにあるアパートに移り、これに伴つて、同年三月二〇日に住民票の住所も右アパートに移転した。その後、被告仁志は、八光を辞めて独立しようと考えるようになつたことから、昭和六三年一〇月ころ、右アパートから大阪市西区靱本町にあるいわゆるワンルームマンシヨンの「靱ハイツ」に移り、これに伴つて、同年一〇月一六日に住民票の住所も「靱ハイツ」に移転した。そして、被告仁志は、同年一一月末ころに八光を辞め、外車の輸入代行販売業を始めた。その後、被告仁志は、「靱ハイツ」が狭いため、平成元年八月二四日、大阪市北区にあるマンシヨン「エンブレムコート天七 一〇三」五〇二号室(以下「エンブレム」という。)を借り受け、これに伴つて、同年一一月二九日に住民票の住所を「エンブレム」に移転した。ところで、本件事故後の平成元年一二月二六日に株式会社大阪綜合リサーチの調査員が「エンブレム」の被告仁志の部屋を訪れたところ、風呂場には、せつけん、歯ブラシ、洗剤、入浴用品一式があり、その付近に洗濯機が置かれ、台所には冷蔵庫、電子レンジがあつたほか、ポツト、炊事用品一式、ビール一ケースがあり、また、洋間には、ベツド、寝具一式、小型テレビ一台、居間には、机、電話二台、フアツクス一台、ステレオ、大型テレビ、ビデオレコーダー、テーブルとソフアー一式があつた。その際、被告仁志は、右調査員に対し、「エンブレム」から奈良県の親元まで毎日車で通勤している。と述べた。被告仁志は、右通勤に阪神高速道路と西名阪自動車道を使用していると説明しており、往復の走行距離は約二〇〇キロメートルとなる。「エンブレム」の賃貸借契約における使用目的は、住宅(居室)であつて、事務所として契約したものではなく、部屋の表札や一階の郵便受けに事務所であることを示す表示は全くなかつた。また、右契約における賃料は、一か月一五万円である。さらに、「エンブレム」における電気使用量については、平成元年九月分が一万六一一四円、同年一〇月分が四〇九四円、同年一一月分が七一一六円、同年一二月分が一万一五一四円であり、関西電力の一般家庭(関西地区加入所帯、一所帯四人家族)の電気使用量を料金に換算すると一か月六六五五円である。また、「エンブレム」における二台の電話の電話料金等は、平成元年九月分が一万二五七八円、同年一〇月分が五万一三二四円、同年一一月分が一万一四一〇円、同年一二月分が七一〇一円である。被告仁志は、主に親元の近くにあるガソリンスタンドで給油しており、平成元年中に右ガソリンスタンドでガソリンを給油した回数は、一月が三回、二月が四回、三月が四回、四月が六回、五月が八回、六月が六回、七月が七回、八月が七回、九月が六回、一〇月が五回、一一月が六回、一二月が二回となつており、毎回ほぼ二〇リツターから四〇リツター程度を給油していた。被告仁志と被告浩之は、いずれも独身で、被告仁志の父親宅の二階には、被告仁志の八畳の部屋と、被告浩之の八畳の部屋がある。なお、被告仁志は、警察による本件事故現場での実況見分に立ち会つた際、自己の住所を「エンブレム」と申告していた。

2  右認定事実によれば、被告仁志は、父親宅を出て親類宅に下宿するようになつて以後、各転居に合わせて住民票の住所を移転しているうえ、「エンブレム」の室内は、通常の居住用建物の内部と全く同一の家具、調度、日常生活用品が置かれ、電気使用量も一般家庭程度、あるいはそれ以上であり、しかも、事務所として使用していることを窺わせるものは、室内外にほとんど見当たらないにもかかわらず、毎月一五万円もの高額の賃料を事務所として使用するためにのみ支払つていたとするのは不自然であるといわなければならず、さらに、被告仁志は、本件事故の捜査段階で警察官に対し、自己の住所を「エンブレム」と申告しているほか、「エンブレム」から父親宅まで往復約二〇〇キロメートルを毎日自動車で通勤していたことを認めるに足りる証拠がないことからすると、被告仁志は、一週間に一、二回程度の割合で父親宅に行つていたことは認められるものの、本件事故当時の生活の本拠は、あくまで「エンブレム」であつたと解すべきであるから、本件事故当時、被告仁志が、自家用自動車総合保険普通保険約款の特約条項(運転者家族限定特約)二条にいう被告浩之の「同居の親族」であつたとは解されない。なお、この点につき、原告らは、被告仁志が父親と同居している証拠として、曽爾村の民生委員を初めとする多数の付近住民の署名簿(甲七、八)を提出しているが、同人らは、被告仁志が一週間に一、二回程度の割合で父親宅に帰宅した際に、被告仁志を見かけたことを同居と判断して署名した可能性が強く、右証拠をもつて「同居の親族」に当たると判断するのは相当ではない。また、原告らは、被告浩之が昭和六一年八月二三日に被告車の自動車保険契約をした際、運転者年齢条件として「年齢を問わず担保」としているのは、被告仁志も対象としていたからであり、本件事故当時の自動車保険契約もその趣旨で契約したと主張するが、被告浩之の右保険加入時における意思が仮に原告ら主張のとおりであるとしても、被告仁志が右「同居の親族」に当たるか否かは、本件事故当時における同居の事実の存否によつて判断すべきものであるから、右主張は採用できない。

3  以上によれば、被告安田火災は、前記特約条項三条により被保険者である被告浩之に保険金を支払わないことができるから、右約款六条に基づき、原告らに対しても保険金の支払を拒むことができると解すべきであり、原告らの乙事件請求は理由がない。

(裁判官 安原清蔵)

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